2023年3月例会 劇団青年座公演

 

作=岩瀬顕子 演出=須藤黄英 

 東京にある、築40年ほどの一軒家を改装して作られたシェアハウス。そこには年齢も職業も国籍も異なる、個性的な面々が住んでいる。 シェアハウスの大家である春山喜代子は食事会を開いたり、住人たちの相談に乗るなど、まるで、母親のような存在だった。

 

 そんなある日、喜代子が怪我をして入院することに。それをきっかけにしばらくの間、夫の秀夫が妻の代わりを務めることになったのだがー。


会場

日程 

 

安佐南市民劇場

 

広島市民劇場

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安佐南区民文化センター_

 

アステールプラザ(大)

 

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13:00

 

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13:00

 

18:30

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18:30

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 希望日締切 2月20日(月)  座席シール発行 3月6日(月)

 

   キャスト

春山秀夫

シェアハウスの大家

山本龍二

岩井富子

春山家の隣人

岩倉高子

長谷部弥生

シェアハウス管理会社の社員

佐野美幸

松岡加奈子

住民

クラウドワーカー

森脇由紀


小池一男

住民/無職

 

若林久弥

高柳美穂

住民/キャバクラ勤務

宜野座万鈴

(ワン) (チン)

住民

ラブホテル清掃員

 

黒崎照

玉田幸平

住民/劇団員

須賀田敬右


春山隆志

秀夫の息子

飲食店経営

逢笠恵祐

野沢至

シェアハウスの清掃員

伊東潤

高柳翔

美穂の息子

澁谷凜音


 

スタッフ

    作……………………………………岩瀬顕子    演出…………………………………須藤黄英

    美術…………………………………根来美咲    照明…………………………………中川隆一

    音響………………………………‥長野朋美    衣裳…………………………………竹原典子

    舞台監督……………………………尾花真     製作…………………………………川上英四郎

 

 

 『シェアハウスの法則』と青年座の三つの魅力

森重達裕(読売新聞文化部)  

 青年座の芝居を毎回、楽しみにしている。

 東京で演劇担当記者になって4年ほど。30代後半まで観劇の経験がほとんどなく、遅れを取り戻そうとジャンルを問わず、やみくもに舞台を見ている。ボロボロ涙が出る傑作もあれば、噴飯物の駄作も、皆目、理解できない不思議な作品もあったが、これまで十数本見てきた青年座の芝居にはハズレが1本もなかったことに気づいた。

 あまたの劇団の中でも青年座の芝居はなぜか心地よく、いつも何かが琴線に触れる魅力がある。その理由を自分なりに三つほど考えてみた。

 ①まず、他の新劇の劇団に比べて外部の気鋭の劇作家(特に私と同世代の1970年代生まれ)が書き下ろした戯曲を積極的に上演していることだ。『真っ赤なUFO』(太田善也作)、『砂塵のニケ』(長田育恵作)、『残り火』(瀬戸山美咲作)、『DNA』(中村ノブアキ作)、『ありがとサンキュー!』(松本哲也作)など市井の人々を描いた家族劇・群像劇が多く、共感できる人物を見つけやすかった。

 ②次に、いかにも「らしい人物」がそろっている。これまでの舞台でミスキャストと感じた配役は一つも思い浮かばない。老若男女、あらゆる役柄にぴったり合う俳優が必ず見つかるのが青年座の強みだろう。

 ③何より演出・演技が自然で、

品の良さが感じられることだ。演劇には様々なアプローチがあるのだろうが、料理に例えればごはんとみそ汁のような、食べ飽きがしない、まっとうな芝居を見せてくれるのが青年座の良さだと私は思っている。

 前置きが長くなった。1月22~31日にザ・ポケット(東京・中野)で上演された「シェアの法則」も、先に挙げた3要素を全て満たしており、青年座の老壮青のアンサンブルが遺憾なく発揮された群像劇だった。

 青年座研究所を卒業後、劇団「日穏―bion―」を主宰する岩瀬晶子の書き下ろし作を、青年座文芸部の須藤黄英が演出した。

 舞台は東京で築40年の一軒家を改装したシェアハウス。住民から慕われていた家主の喜代子が入院し、喜代子の夫で税理士の秀夫(山本龍二)が代わりを務めることになった。だが、秀夫は妻の不在中に家賃の大幅値上げを住民たちに通告する。

 住民から「ギョロッとした目」と評されるコワモテで偏屈な秀夫を演じた山本をはじめ、世話好きな隣家のおばちゃん(岩倉高子)、心を閉ざした無職の中年男(若林久弥)、10歳以上もサバを読んだキャバクラ嬢(尾身美詞)、不法滞在のまま働く中国人(黒崎照)、大会社を辞めた小劇団の役者(鹿野宗健)など、まさに青年座が誇る「らしい人物」のオンパレード。舞台に登場しない喜代子を含めた12人の人物像と

各人が抱える事情と秘密が自然な会話のやり取りから少しずつ浮かび上がる。

 テレビや冷蔵庫の共有から生じる些細なもめごとから、外国人労働者の搾取、多重債務、引きこもり、震災のトラウマ、SNSの風評被害、親子の断絶といった深刻な問題までを、わずか2時間の物語の中に違和感なく溶け込ませた岩瀬の構成力が光る。こんがらがった12本の糸をほぐして1本の線にまとめ、観客に明快に提示した須藤の演出の手際も鮮やかだった。

 夜中に家に侵入する若い男、喜代子が保管していた離婚届など、いくつかの小さなナゾが物語にちりばめられ、それらの小事件の発覚と解決が「気づき」となり秀夫を始めとする登場人物のほぼ全員に心境の変化と成長が訪れる。切なくも温かいラストも快い余韻があった。

 時代設定は2014年。当初は今現在を描いた物語になる予定だったが、「未来の予測が難しい」という理由でやや前の時代に変えたという。ただ、世間の意識がコロナに向きすぎた昨今、他にも解決すべき社会問題が多く残っていること、そして、ほぼ全ての問題は「相手を思いやり、共感する」ことが解決の糸口になることも、この作品は気づかせてくれた。それは青年座が演劇活動を通じて日々実践し、提示し続けていることでもある。

(青年座通信202151日発行)


 

後援:広島市・広島市教育委員会