公演会場での入会受付は行っておりません。公演日は事務所をしめていますので事前に、手続きお問い合わせをお願いします。
広大な未開の地・北海道で人生を切り拓いていった男たちと、それを支え続け凛々しく生きた女性三代の物語「海霧」。原作は原田康子さん〔1928-2009〕が自身の血族をモデルに綿密な調査を行って書き上げ、2003年に吉川英治文学賞を受賞した長篇大河小説。同じく北海道在住の劇作家・小池倫代さんの脚本により、満を持しての舞台化です。たくましく生き抜いた一族の壮大なストーリーは現代の私たちに圧倒的なエネルギーで迫ってきます。樫山文枝が平出さよ役の演技で2008年紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞しました。
原作=原田康子
脚本=小池倫代
演出=丹野郁弓
装置=勝野英雄 照明=前田照夫
音楽=池辺晋一郎 装置=緒方規矩子
効果=岩田直行
[あらすじ]
新天地への夢を求めて佐賀から釧路へと渡り、店を開いた平出幸吉と妻さよ。やがて隆盛を極めた平出商店の悩みの種は、跡取りである男まさりの長女リツと婿の不仲でした。孫の千鶴が誕生したことでこれからは順風満帆と思えたのも束の間、平出家には次々と荒波が押し寄せます。
過酷な風土の中で明治、大正、昭和を生き、一族を見守り続けたさよの胸には、いつもあの北の海の「深い霧」があったのでした……。
開演時間 |
|
アステールプラザ大ホール |
安佐南区民文化センター |
||
4月7日(火) |
4月8日(水) |
4月9日(木) |
4月10日(金) |
||
昼 |
|
13:00 |
|
13:00 |
|
夜 |
18:30 |
|
18:30 |
|
度量の大きな母 漂う凄み
原作と舞台脚本は違う。脚本と実際の舞台の印象もさらに違う。うなずいたり、首をかしげだり、うならされたり。そんな演劇鑑賞の醍醐味(だいごみ)を楽しめる作品だ。今回初めて、舞台化された。
舞台は開拓時代初期の釧路。裸一貫から海産物・米穀卸の商店を築いた平出幸吉(伊藤孝雄)と妻さよ(樫山文枝)、長女リツ(中地美佐子)、次女ルイ(桜井明美)の一家が、波乱にさらされながら、それぞれの人生をまっとうする。
一家の大黒柱は幸吉だが、幸吉が甘えることができるさよは「大地の妻」にして「大地の母」。一歩下がったところで家族はもち
うん、しっかりと使用人たちをまとめる。野心家でいいふりこきの男どもが家族を裏切って関係を持った女性たちの暮らし向きにまで、気遣いを見せるのだ。
さよには自らの怒りの感情すらのみ込んでしまう度量の大きさがある。舞台で樫山は静かにただならぬ感情を表現していく。女性の凄(すごみ)みを漂わせながら。
第一幕は、公平で潔癖なリツの早すぎる死でクライマックスを迎える。リツの亡きがらを抱きしめるさよの姿について、本番前に樫山は「子を抱くマリアの絵のように客席から映るとうれしい」と話していたが、不覚にも涙で」ぼやけてよく見えなかった。
出演者は過去何度も家族役で共演している座付き役者たちだけに、夫婦、親子などの関係性はしっくりとかみ合っている。
同タイトルの小説を書いた原作者の原田康子(札幌市在住)が愛情を注いだ脇役、アイヌ民族の使用人モンヌカル(境賢一)と女中頭たき(大越弥生)の名コンビも、原田を喜ばせそうなシーンを幾つも再現する。
釧路港上陸で始まり、半世紀を経て釧路駅の場面で幕を下ろす大作は、やはり道内で再演を見たい。壮大なスケールで展開するドラマに欠かせない海、霧、馬が、舞台上でどう表現されたのかも秘しておこう。脚本は小樽市在住の小池倫代が担当。演出は丹野郁弓。
(土屋孝浩)
▽7日東京・日本橋の三越劇場。公演は20日まで。
(2008年12月13日 北海道新聞)
後援:広島市・広島市教育委員会